現代の若者や子供たちを取り巻く環境は、歴史上最も「安全で、傷つかない世界」へとアップデートされ続けています。学校でも職場でも、誰かが傷つく可能性のある「競争」や「序列」は排除され、理不尽な叱責や摩擦はハラスメントとして徹底的に駆逐されます。親や周囲の大人たちは、先述の「甘やかし」のセオリーに基づき、子供たちが挫折や不快感を味わう前にすべての障害物を先回りして取り除く、徹底的な「無菌室」の日常を作り上げました。
一見すると、誰もが平穏に暮らせる優しい社会の完成です。しかし、この失敗の無菌室化こそが、現代の若者から最も重要な精神の筋肉である「心理的レジリエンス(復元力)」を致命的なまでに去勢してしまう、静かな破滅の罠に他なりません。
人間の精神は、予防接種(ワクチン)と同じように、幼少期や日常の中で「思い通りにならない現実」「小さな挫折」「他者との生々しい衝突」という微小な負荷(ウイルス)を経験し、それを試行錯誤して克服していくプロセスによって初めて、強固な免疫システムを構築するように設計されています。
何一つ異物のないクリーンな世界で育てられた人間は、見た目は健康でスマートでも、中身は自力で1度の負荷にも耐えられない、ガラスのように脆いメンタルを持って現実社会へと放り出されます。彼らは、社会に出て直面するほんの少しの予定調和の狂いや、他者からの客観的なアドバイス(指導)を受けただけで、それを「世界からの全否定」や「致命的な攻撃」だと脳内で過大解釈し、一瞬で心が砕け散り、自己崩壊してしまうのです。
私たちは、若者を守っているつもりで、その実、彼らが人生の荒波を生き抜くための「野生の耐性」をすべて剥ぎ取ってはいないでしょうか。この過保護なディストピアのループを断ち切るためには、あえて日常生活の中に「自分の都合が一切通用しない、不自由で思い通りにならない環境(大自然のカオス)」を意図的に取り戻すしかありません。自然の物理法則と泥臭く対峙し、自分で失敗して、自分の知恵でリカバリーする。その泥臭い原点回帰の体験の中にしか、これからの不確実な未来を不敵に笑って生き抜くための、本物の「強さ」を宿す道は残されていないのです。 |